第二回 『ちっちゃいさん』が翻訳出版されるまで ①

イソール作/宇野和美訳
1,500円(税・配送手数料別)

―今回、この『ちっちゃいさん』とはどのように出会ったのですか?

イソールさんの本は、以前に『かぞくのヒミツ』と『うるわしのグリセルダひめ』の翻訳をしていたんです。

2014年に『かぞくのヒミツ』を日本で出したときにイソールさんと連絡を取ったことがはじまりですね。

なので新作『ちっちゃいさん』が出た時に、すぐにメールで送ってくれました。

 

―ご本人と直接やり取りされているのですね!

そうですね。現地では2015年のボローニャ児童図書展の時期に発売されたんですが、

日本でどうかしらと、事前にPDFを送ってくれていたんです。

でもすぐには手が出せなくて、しばらくしてからある編集者さんに見せて、

幸いにも刊行することができました。

 

―今回の版元、講談社の編集者さんですか?

そうです。『かぞくのヒミツ』の版元は出せないのがわかったので。

そういえばイソールさんのこと、おもしろいと評価してくださっていたな、

と思い出して相談したんです。

 

―相談したら、OKをもらえたのですか?

はい。その編集者さんは育児書を読むことが昔から好きだったそうで、

「赤ちゃんの取り扱い説明書みたいでとても面白い」と言ってくださって。

 

 

―無事採用されてよかったですね! 日本語版で苦労した点などありますか?

翻訳は、最終稿になるまでかなり手を入れました。

訳文のあいまいなところ、絵とうまく結びつかないところなど、編集者さんからもいろいろ指摘をもらいました。

でもすごく熱心ないい編集者さんで、とても気持ちよく楽しく仕事をさせてもらいました。

 

―イソールさんの文章は、どのような雰囲気を持っているのでしょうか。

スペインの絵本では、「え、これ子どもには分からないよね」って表現が多い気がしますが、

その点イソールさんはシンプルに子どもに分かる表現を選んでいます。巧いですね。

 

イラストを描いた時に、イラストだけじゃなく、そこにひと言ふた言の言葉をそえると、みんながもっと面白がるのにある時気づいて、文章と絵の組み合わせを楽しむようになった、とお会いした時に言っていました。

 

絵本の絵のときも絵と文章の両方で語るということにこだわる人ですね。

 

―『ちっちゃいさん』というタイトルは、いつ頃決まったのですか?

タイトルも最初は色々候補があったんですけど、『ちっちゃいさん』というタイトルはすぐ決まりました。

 

―『ちっちゃいさん』というのは「赤ちゃん」という言葉を一切使っていないんですよね。

  原書の「El Menino」はどういう意味でしょうか?

ポルトガル語で子どもという意味なんです。

スペイン語だと王様や王女様についている「小姓」の意味です。

ベラスケスの『ラス・メニーナス 女官たち』という絵があるんですけど、あのメニーナの男性版です。

 

ラス・メニーナス

wikipediaより「ラス・メニーナス 女官たち」

 

―すぐにポルトガル語だ、とわかったのでしょうか。

最初は分かりませんでした。読むと赤ちゃんのことを呼んでいるな、ということはわかりましたが、じゃあどうして「Menino」なんだろうと。

 

アルゼンチンの友達に聞いたらポルトガル語で「Menino」って男の子、子どもって意味だよ、と教えてもらって。ポルトガル語圏のブラジルが隣なので近いんですね。

 

―イソールさんのこだわりがあったのでしょうか。

私が最初にもらったPDFではMeninoじゃなくて、biomboって書いてある箇所がありました。結局イソールさんに聞いてみたら

 

「赤ちゃんのことだけども、赤ちゃんと言う言葉は使いたくなかった」と言われました。

イタリア語で子どもと言う意味をもつBambinoも候補になりましたが、最終的にMeninoになったそうです。

つづく

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