カラフルで明るい色を使った絵本が多い中、
『あるばん あるねこ…』は黒がメインカラーであり、シックな色合いが特徴の挿絵が魅力的な絵本です。
最近は日本でも『ねないこ だれだ』のような黒を基調とした絵本も人気ですよね。
日本人の感覚としては夜の色というと、
つい濃い藍色か紺色のような青系の色を考えてしまいますが、
『あるばん あるねこ…』では夜の色は本当に真っ黒なのです!
真っ黒なページに光が反射して、怪しくゆれて見えるのも作者の計算の内でしょうか。
さて、この真っ黒色の中で、黒猫が登場したらどうなるのでしょうか。
そんなあるページのイワン・ポモーのアイデアは斬新で素敵だなと思いました。
黒色をうまく使って、影や夜の暗さをより怪しく見せているのです。
作者のイワン・ポモーの作品には他にも黒猫が主役だったり、カラスのお話だったり、夜や黒い影が効いた表紙だったりと、
全体的に黒が目立つ本が多いのです。
彼にとって黒は大切なカラーなのでしょう。次に多いのが青色で、黒色の中の青色を引き立たせる色使いが彼のスタイルなのです。
そのスタイルからも第1章の作者紹介で触れた、
北斎やジャン・フーケの絵が好きだったのだなということが私の中で思い起されます。
『ぞうのババール』のときにも少し書きましたが、色に注目すると面白いです。
悪者のネズミ(猫にとって危険な動物がネズミというところも、普通とは逆でなんだか面白い!)
はこの絵本の中で、私としては一番目立っていると思った赤色のパンツをはいています。
それに対して主人公は誰よりもシンプルな白色のシャツにこれまた白に近い薄いベージュ色のパンツ。
なぜ主人公が一番地味なのかと最初は思ってしまいましたが、
黒がベースの絵本の中では白こそが一番引き立つ色なのでしょう。
白色であるからこそ、始めにあまり特定のイメージを主人公に抱かず、
子供たちが自分のオリジナルのイメージに染めやすいのかもしれません。
挿絵の街はパリなのではないかなと私は想像しました。
前回の『くまのサーシャはなくしやさん』でも少し触れた煙突が何本も並ぶ屋根、
屋根裏の凝った出窓、歴史のありそうな彫刻像を携えたパリカラーの建築物、
ネオンの光る街。そんな絵に私はパリを思い出しました。
読んでいたらなんだか無性にパリの街を歩きたくなってしまいました。
(つづく)
文・絵/イワン・ポモー
訳/山下明生
出版社/フレーベル館
刊行年/1996年(フランス・1994年)
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著者プロフィール
福本舞衣子
家族とともに1歳でフランスに渡り、計約10年間、幼少期と10代をパリで過ごす。高校時代は、地元フランスの進学校のL文系へ進み、
フランス文学や詩について学ぶ。日本の大学でもフランス語を専攻。現在は日本在住。
著書に『星の王子さまが話してくれた世界一幸せになれる33の言葉』がある。