「ぼくらが見たコロナ」詩歌部門の審査員、山口さんより寄稿いただきました。
山口さんにとっての詩の教科書は茨木のり子さんの『詩のこころを読む』です。
岩波ジュニア新書で刊行されているので、小学校の図書館にある、という学校もあると思います!
休校が終わり、学校図書館が開いたらぜひ探してみてくださいね。
以下、山口さんの寄稿です。
はじめまして、山口勲と申します。
わたしは『て、わた し』という詩の雑誌をつくったり、
自分たちで作った詩をカフェであつまって読みあう会をやっています。
新型コロナウイルスの流行にともない、
学校に通えなくなってしまった皆さんに、
自宅でも安心できずに暮らしている皆さんに、
始業式や卒業式や大切な大会がなくなってしまった皆さんに、
わたしの想像もつかないところで苦労していらっしゃる皆さんに、
今日も生きていてくださり、ありがとうございます。
さて、今回、絵ノ本さんから審査員をしてほしいとおねがいされて、
びっくりしました。
ふだんは大学生以上の人が読む本を作ったり、イベントをやっているからです。
ひきうけます、とお答えしてから、一か月ちかくたったいまも、
どうして絵ノ本さんがわたしを加えてくださったかを考えています。
そして、「ぼくらが見たコロナ」の詩歌について、大切なことを三つ伝えたいとおもいました。
(1)今までほとんどなかった作品の募集だということ
(2)大人も子供もおなじようにして言葉をさがしているなかで行われているということ
(3)自分が書きたいことを大切にしてほしいということ。書いた人の書いた気持ちを大切にしてほしいということです。
(1)今までほとんどなかった作品の募集だということ
「ぼくらが見たコロナ」は、みなさんの見ていることや不安にかんじることを書いてほしいと書いています。
テーマは新型コロナウイルス、
対象は日本語をつかうことのできるみなさんです。
ひとつのことをテーマにして自分のことを書いてもらう賞として、
こんなに広いものはあまりありません。
ひとつのことをテーマにする作品の募集はたくさんありました。
同じくらい広いものは、税や、水道、交通安全…古くは戦争がありました。
でも、これらの作品の募集と「ぼくらが見たコロナ」はまったくちがうと思っています。
なにがちがうかというと、今あげた作品の募集は、
募集する人たちの思いがつよくあります。
募集する人の思いを代わりに伝える作品をテーマの形で募集していることがよくあるのです。
税ならば「税金をおさめてほしい」とか水道なら「水を大切にしてほしい」とかです。
戦争はもっとひどいです「日本のために死んでほしい」。
でも、「ぼくらが見たコロナ」ではみなさんにかわりに伝えてほしい思いはありません。
みなさんの不安そのものや生活のなかで出てくる言葉を募集しています。
ほかのだれが言おうとも、作品をよむわたしは、
作品のなかにみなさんの正直ないまがあるんだとおもって
作品を読みたいと思っています。
(2)大人も子供もおなじようにして言葉をさがしているなかで行われているということ
新型コロナウイルスの流行が始まり、緊急事態宣言が発令されています。
目にみえないウイルスのせいで、いつも通っている場所に行けなくなりました。
まちなかはいつもと同じに見えるのに好きなものや場所にふれられなくなるなんてこと、ほとんどの大人も想像していませんでした。
「ぼくらが見たコロナ」は小学生~高校生に向けた募集ですが、大人も言葉をさがしています。
わたしも言葉をさがすしている一人です。
わたしも新型コロナウイルスの流行が始まってから、
インターネットを使って自分たちで作った詩について話し合う会を始めました。
ほかにも、『ゆめみるけんり』という文芸誌をつくっている工藤順さんは
「いま寄り添うためのことばを」と題し、詩や言葉を集めています。
千葉に住む詩人、川方祥大さんは
「夜、詩情の夜」でさまざまな著名な詩人の朗読を中継しています。
川方祥大
(過去の放送も聞けます)
胎動レーベルでは夜に通信環境があれば参加できる詩のイベントをしています。(不定期だし夜なのだけど)
ikoma / 胎動LABEL
(過去の放送も聞けます)
いまあげたのは、わたしの知り合いで、みなさんが学生であるかどうかにかかわらず同じ目線で話してくれる人たちに限りました。
きっとみなさんももっといろいろな場所を知っていると思います。
もしも時間があり、作品があれば、さまざまな会をやっている人にお話ししてほしいです。さがしているから。
(3)自分が書きたいことを大切にしてほしいということ。書いた人の書いた気持ちを大切にしてほしいということ
これまで、いろいろ書いてきたのですが
「ぼくらが見たコロナ」はどんな偉い人もやったことないこと
今もさがしていることをテーマにしています。
そんななかだから、みなさんの書いたものは
どんなものでもかけがえのないものになるとおもっています。
ですから、お願いです。自分が書きたいことを大切にしてください。
書こうと思うことは明るいことかもしれません。
かなしいことかもしれません。
でも、自分が書きたいことを大切にしてほしいし、
書きたいことを書ききってほしいと思っています。
そして、作品をまとめてくださる皆さんは、すでに絵ノ本さんが書いてくださっている通り、「あまり意見を反映させない」でほしいと思っています。
その代わりに、できたら大人もみんなと同じように「ぼくらが見たコロナ」をさがしてほしいです。
(2)にあげたとおり、大人も発表できる場所があります。本当は、大人も子供もご自身のことを書いてほしいとおもっています。
みなさんの作品を読むことができるのを楽しみにしています。
ありがとうございました。