第五回 スペイン語圏の出版事情

イソール作/宇野和美訳
1,500円(税・配送手数料別)

―こちらの『ちっちゃいさん』はアルゼンチンの絵本なんですよね。

アルゼンチンの作家が描いているんですけど、出版社はメキシコです。

 

―すべてのスペイン語圏で販売されているのですか?

そうでもないんです。スペインの3,4社の大手は中南米にも支部があるので、

販売網があるところもありますが、スペインで出ている本が自動的にスペイン語圏でも出るわけではないんです。

『ちっちゃいさん』はメキシコとアルゼンチン、スペインで出ていますが、ほかの国でどうかはわかりません。

 

―どの国で出すかという基準とかあるんでしょうか。

それは分かりません。

ひとつの出版社でも一冊ごと販売エリアが違うこともあります。

ただ、スペインで出た本が、輸入本としてラテンアメリカで流通していることはあります。

 

―メキシコやアルゼンチンは政府が本を買い取っているという話しを聞いたのですが、

  『ちっちゃいさん』は政府が買い取ったのでしょうか。

これは買い取っていないと思います。

毎年文科省が選んだ本を政府が買い取って配布する国はいくつもあります。

学年ごとにばーっと配るから何万部も売れることになる。

でも予算が決まっているので、出版社が「うちはこの値段で作れますよ」と質より量の本が作られることもあると聞きます。

 

―そんななか、イソールさんのこの絵本は量より質という感じがします。

量より質、というか、納得いくまで時間をかけて作っていますね。

『ちっちゃいさん』を作った編集者はスペイン語圏では非常に有名な編集者さんで、いつも丁寧な仕事をしていらっしゃいます。

ラテンアメリカでも一生懸命作っている人が各国にいて。

商業的な本が多いけれども、丁寧な本づくりをしよう、いい本を届けよう、取り組んでいる出版社があります。

 

―販売点数を稼ぐ、ということですね。

政府が買い取ってくれればロットが増えるので、選ばれたら儲かりますよね。

でも、今度はちゃんとつくられた本が買いたたかれて…この値段だからまけてくれ、と値切られることもあるそうです。

 

―絵本を見ていると、翻訳助成プログラムとあるんですが、これはなんでしょうか。

アルゼンチン政府がやっているプログラムで、申し込みをして通ると3000ドル助成してくれるんです。

出版社の方がアルゼンチン大使館経由で申請して通りました。

 

―出版の費用を援助してくれるんですね。

出版助成ではなく、翻訳助成です。実際は制作費用に充てられますが。

 

―ほかのスペイン語圏でも助成制度はあるんでしょうか。

スペイン、メキシコ、アルゼンチンでは助成を行っています。政府が変わるとどうなるかはわかりませんが…

 

―申請できる本など、特徴はあるのでしょうか。

メキシコは名作重視。定評ある名作しか受けつけないと聞いています。

スペインは申込するのに書類をすべてスペイン語で用意しなければいけません。

このとき、アルゼンチンは英語で書類を描けばよく、どんな本も受けつけていて、絵本でも申請できました。

助成額はどの作品も一律3000ドルでした。

 

―助成プログラムがあるのは、自国で生まれた本を知ってほしいというところから?

そうですね、そうだと思います。

日本政府もやっていますが、言語が限られていたり、政府が選んだ作品でなければならないなど、縛りがあります。

 

つづく

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