リサとガスパールのフランス語原作タイトルは『Les Catastrophes de Gaspard et Lisa』です。
『ガスパールとリサの大騒ぎ』といったところでしょうか。“catastrophe”には、“大惨事”や“大失敗”、“最悪!(口頭で)”などの意味があります。
おてんばなリサと負けず嫌いなガスパール、2人が巻き起こす数々の大惨事!
「なんてこった!(Catastrophe!)」と思わず言ってしまうようなお話がいっぱいでクセになります。
実はこの“catastrophe”という言葉、高校生になってすっかりフランス語を忘れていた私が再度現地でフランス語を勉強しなおした時に1番に覚えた言葉(基本的な言葉は抜いて)でした。
なぜこんな言葉を1番に覚えたかというと、その当時フランス語を教えてくれていた先生に毎日言われていたからです。
始めのうちはなかなかフランス語が上達しなくて、間違えたり、答えられなかったりするとスパルタだった先生によく「Catastrophe!」と言われていました。
最初は独り言のように言っていた先生でしたが、ある日「これは“世界の終わりね”って意味だから!」と教えてくれ、その言葉の強さに衝撃を受けてすぐに覚えてしまいました。
その言葉や舌打ちを聞くたびに胃がキリキリして、あの頃は他のことにもまだまだ慣れず辛かったのですが、そんなcatastrophesな日々があったからこそ強くなれたし、フランス語も上達したので今があるのはそのおかげだと本当に感謝しています。
その頃に『リサとガスパール』でこの言葉を先に知っていたらまたちょっと私の中での“catastrophe”の印象が違ったのかもしれないなとも思います。
(人生は螺旋階段のよう/Instagram@fuku.fukuu)
フランスの児童向け物語のタイトルにこういったちょっとネガティブな言葉もしばし使われているなと思いました。
例えば他に『Les malheurs de Sophie(直訳:ソフィーの不幸や逆境)』という作品。フランスの昔の児童小説ですが、
これは『おてんばソフィー』と訳されて日本でもアニメが放送されていました。
たしかにおてんばではあるのですが、母親との別れや継母からの虐待など悲しい運命のソフィーはよく泣いていました。
邦題の『おてんばソフィー』からイメージする陽気な雰囲気ではなく、『Les malheurs de Sophie』がやはりよりしっくりきます。
暗い話ばかりではなく、昔の西洋貴族文化が描かれていたり、オープニングやエンディングも特徴的で興味深いアニメでした。
訳すときも暗い言葉をあまり使わないように、日本生まれの絵本でもネガティブなワードを使ったタイトルをあまり見かけない気がします。
日本人は悪いことを言うときもオブラートに包んで言うクセがあります。相手を思いやる気持ちからそうなるのだと思います。
しかしフランス人はストレートに思ったことを発言します。たまにちょっと回りくどいブラックジョークのようなもので伝えてくる場合もありますが…
ストレートに伝えてくれる方が分かりやすく、その場で話し合えてスッキリするので影で言われるよりは断然良いのですが、その分議論が白熱することがあります。
反対にその人の前では良い顔をして褒めちぎるのに裏では悪口を言うようなあの感じは苦手です。しかし相手を想って出来るだけ傷つけないように考えて話す日本人らしさは素敵だなと思うのです。
そういったフランス人の直球さがタイトルにも出ているのでしょう。
『リサとガスパール』は「Catastrophe」と言いながらも明るくポジティブなお話がほとんどなので広く愛されているのですね。
1作に1回出てくる「Catastrophe」という言葉、日本語訳だと毎回いろいろな訳で書かれていますが、リサとガスパールが言っていると
「あちゃー!」といった雰囲気でなんだか憎めないのです。
(つづく)
著者プロフィール
福本舞衣子
家族とともに1歳でフランスに渡り、計約10年間、幼少期と10代をパリで過ごす。高校時代は、地元フランスの進学校のL文系へ進み、
フランス文学や詩について学ぶ。日本の大学でもフランス語を専攻。現在は日本在住。
著書に『星の王子さまが話してくれた世界一幸せになれる33の言葉』がある。