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―帰国後すぐに受験することをやめた大学へ、再度挑戦されたのですね。
―そうですね。
もう一度、フランス語を学べる機会に恵まれたのは、本当に嬉しいことでした。
―念願の大学でフランス語を学び始めて一番嬉しかったことなどありますか?
―いろいろありますが、印象深かったのは再び星の王子さまに出会えたことでしょうか。
一次面接でお世話になった教授の授業が『星の王子さま』だったんです。
―嬉しいですね。教科書として使う本はフランス語で?
―はい。なので、周囲は教材用として新品の本を購入するなか、
私は、高校の時にたっぷり使い込んだあの本を使いました。
―使い心地はいかがでしたか?
―なんだろう…やっぱりはじめは葛藤がありましたね。
使いたくないな。でも、使いたいなって。懐かしさがこみ上げて来て。
―当時の思い出がよみがえってきた、と。
―フランスでの高校生活や星の王子さまから逃げたかったこと、
何度読んでもなかなか理解できなかったこと、
ある日カセットテープを聞いたら急にわかるようになったこと、
そこから、王子さまにどんどん惹かれていったこと…いろんな思いがわき上がってきて…
―前の大学に行っている間は、まったく触れていなかったですものね。
―なんだろう。あの時の思い出をそのままこの本に閉じ込めていたような感覚だったので、
今これを使うと、あの頃の気持ちが上書きされてしまう、という思いもあったのだと思います。
―本って、不思議ですよね。そのときの、自分の心境や思いが沁みついている。その本は、高校時の福本さんだけでなく、大学でも支えてくれる存在になったのですね。
―はい。大体1年ほどお世話になりました。
大学でも『星の王子さま』を学ぶ機会があって、縁があるな、なんて思いながら。
―卒業後は、フランス語に関連するところに就職されたのですか?
―いいえ、接客業をしていました。
話すことが苦手だったので克服したいという気持ちがあったんです。
―帰国後、日本語を学び直し、再びフランス語と向き合い、話すことを克服するために就職、ととても前向きに行動されていますね。
―ありがとうございます。そういえばそうですね。それもフランスでの生活が影響を与えているかもしれません。
海外生活のおかげで精神的にも強くなったので、色々なことに飛び込んでチャレンジしてみたいという思いがあったのかなと思います。
著書より、井戸のワンシーンを引用したページ(写真/福本舞衣子 @fukufukuu)
『星の王子さま』の中で、
もう蓄えの飲み水が尽きたので砂漠ではたぶん見つからないだろうと思われる井戸を探すという一節があるのですが、
そんな気持ちで星の王子さまみたいにいつも困難に見えても進みたい気持ちがあったのでしょうね。
星の王子さまが教えてくれたんですよね、「砂漠が美しいのはどこかに井戸を隠しているからだよ」って。
―常に心の中に王子さまがいるのですね。
接客業に就いたことで、ご自身に変化はありましたか?
―最初はしゃべる勇気が出ないこともあったのですが、絶対話さないといけない、
という環境に身を置いていたこともあって、前よりも社交性が身に付いたように思います。
―では、まったくフランス語には触れずに過ごしていたのですね。
―いえ、接客業の他に、大学時代の恩師のお手伝いをしていたので、
ありがたいことにフランス語には触れていました。
―どんなお仕事だったのですか?
―児童文学作品のフランス語版の文字チェックなどを行っていました。
講義用に使うものだったのですが、楽しい作業でした。
その恩師には今でも本当に感謝しています。
―接客業をしながらフランス語授業のサポートをしている頃に本の話があったのですか?
―いえ、その後結婚して仕事はどうしようかと考えていた頃でした。
最初はもうびっくりして。え、私でいいの!って。
いや、私がやりたいです!って(笑)ただただ驚いていましたよ。
(つづく)
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著者プロフィール
福本舞衣子
家族とともに1歳でフランスに渡り、計約10年間、幼少期と10代をパリで過ごす。高校時代は、地元フランスの進学校のL文系へ進み、
フランス文学や詩について学ぶ。日本の大学でもフランス語を専攻。現在は日本在住。
著書に『星の王子さまが話してくれた世界一幸せになれる33の言葉』がある。
Instagram @fukufukuu