第三回 シンプルなデザインから絵本が生まれる

にこにこばぁ
えほんの杜/762円(税・配送手数料別)

―少しずつ嗜好性に気づかれていったのですか。

幼い頃は児童文学とかムーミンとか好きで、そこからものづくりに入っていったので

そういう世界観を求めていると思っていたけれど、歳を重ねていくうちに好んでるデザインとか

聴く音楽とか、そういうのを改めて見るとシンプルでアイデアが新しくて面白い、

そういうものに惹かれていることにも気づくんです。

その点で言っても、あかちゃん絵本と自分のセンスがバシッとはまったというか、

振り返るとそうだったなっていう気はしますね。

 

―そうなんですね。

確かに『いろいろばあ』シリーズも、色の3原色で構成されていてとてもシンプルですよね。

デザイン的なところを大事にしていますね。

 

―うち、4歳と1歳のこどもがいるんですが、

『にこにこばあ』を見せたときに、4歳の子も夢中になって。

そうなんです。この絵本って、結構上の子も、楽しんでくれるみたいで。

 

いろいろばあシリーズ3作

 

―あかちゃん絵本っていう先入観で、1歳の子を意識して読んだんですけど、

上の子も食いついていて、ハートのページが一番気に入ってたんですけど、「ハートだー♡」て。

とてもシンプルで読みやすいので、何回も読んでって、持ってきてくれました。

読み聞かせって、文章多いとイヤになっちゃうじゃないですか。

だからできるだけ、テキストは短いけど何回も楽しめたり、空想の世界が広がったり、

そういうのがいいですよね。

 

―『せん』という絵本も9月に発売されたんですよね。

そうですね、秋頃にいくつか出るんですよ。5、6冊ほど。

 

―こちらも楽しそうな絵本ですよね。

これがまたいいんですよ。これは僕の線をキャラクターとして、線がなにかをする、

という設定だけで絵本を作ってみたいという思いから生まれた絵本です。

 

面白いですね。ただ線があるだけなのに、線が遊んでいる感じがしてわくわくします。

物語とか、世界観じゃなくて、いかにそぎ落として、

一つのアイデアをエンターテイメントに昇華するかっていうチャレンジの、

けっこう極端なところを目指しましたからね。

これは『すこやかあかちゃんえほん』のシリーズの5作目なんです。

同じシリーズに『しろとくろ』や『カラフル』があります。

 

―すごく線の特徴を捉えていますよね。ふにゃっ、とか、がががが、とか。

「きゅ」っていうのも、ホワイトボードで書いている感じが伝わります。

今はもう、保育園での試読とかはされてないんですか?

していないです。全然。もうだから今は、暗中模索。感想もあんまり聞かないですね。

まあレビューとかたまに見ますけどね。絵本ナビとか、アマゾンさんとか。

 

せん/岩崎書店(850円 税抜)

 

―レビュー書いた方が読まれるかな、という思いは読み手側にもある気がしますね。

今、あかちゃんの絵本の反応を知る機会というのはあるんですか?

編集者さんが、知り合いや同僚の、ちっちゃい子がいるおうちに持って帰ってもらって、

そこからの意見をいただきますね。

 

―ときには反応が良くなかった、というのもありますか?

あんまりないけど、たとえば絵本を読んでもらったとして、

このヘビは1,2歳の子は知らないから、違うモチーフに変えましょうっていうことは

けっこうありますね。モチーフを知っているか知らないか、興味あるかないか、とか。

 

―ありますよね。

その場合、あえて知らなくても、インパクトで勝負する。

 

―先に絵本を見て、あとから「あれのことか」ってありますよね。

ありますあります。あるから、それを狙ってるときもありますけどね。

まるっきり反応がない、ということはないですね。

 

―お子さんの反応がいいのは、扱うテーマが冷蔵庫や絵の具など身近なものを使用していて、

かつシンプルっていうのもあるかもしれないですね。

冷蔵庫開け放題、夢の絵本です。

 

―あかちゃん絵本といっても、読むと姉妹二人で楽しんでいて。

あかちゃん絵本というのは、「あかちゃんから楽しめる」という視点であって、

上の子が楽しめないわけじゃないんだ、ということを教えてもらいました。

まあ、あかちゃん絵本といっても、僕自身が面白いと思って作っていますからね。

 

―そうですね。あかちゃんのための絵本を作る、ではなく。

たぶん43歳の人でも楽しめるんじゃないですかね。だって、これ僕すごい楽しいですもん。

 

―楽しいですね、『せん』は余白も多くて。ぴょんぴょーんて、

本当にぴょんぴょんしてるな、と感じます。

『にこにこばあ』の黒くんも、表情がそのまま伝わってきます。

黒くんね。ここまでは付き合っていますよね。主役と思いきや、帰っちゃう。

 

―絵本の黒くん、ずっと怒っていますね。

そうなんですよ。黒くんは眠かったので機嫌が悪かったんです。

で、皆と遊ぶんなら遊ばないって、帰っちゃうんですね。

 

―そこからずっと白ですもんね。白ずっとにこにこしていて。

途中、白だけ返事していますよね。黒はしらんぷりで。

そうなんですよ。黒は帰っちゃうんですよ。

 

―このセリフのない黒をみて、こどもに「黒はなんて言ってるの?」って訊いたら

「だーめーよ」って言っているって。

可愛いですね。

 

―絶対、そんなかわいく返事していないでしょって思うんですけど(笑)

 

(つづく)

発売中!!『せん』もあるよ!!

にこにこばぁ
えほんの杜/762円(税・配送手数料別)

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作家プロフィール

新井洋行(あらいひろゆき)
1974年東京生まれ。絵本作家・デザイナー。
著書に『れいぞうこ』(偕成社)、『いろいろばあ』シリーズ(えほんの杜)などがある。

挿画に『パーシー・ジャクソン』シリーズ(ほるぷ出版)、『モーキー・ジョー』シリーズ(フレーベル館)など。
2人の娘の父でもあり、一緒に絵を描いたり、バドミントンをして遊んだり、と親子の時間を楽しんでいる。

 





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