第六回 読み聞かせという「あそび」

にこにこばぁ
えほんの杜/762円(税・配送手数料別)

―読み聞かせをして初めてわかることってありますよね。
『100万匹の猫』という絵本があって、おじいさんが100万匹の猫を捨ててくるストーリーなんです。
で、途中で猫が全部草を食べちゃうとか、池を全員で飲み干しちゃうんですけど、
そこにすごく反応するんです。

草一本もないほど食べちゃうの?とか、別に面白くないんですけど、
こどもは喜ぶ。こどものツボって大人と違うということを、いろんな絵本を読んで知っていくうちに
「これうちの子喜びそうだな」と日常生活でも共感や楽しみが増えるかもしれないですね。

―そうですね。うちも、『アレクサンダとぜんまいねずみ』というレオ・レオニの絵本に、
 1ページしか出てこないくまのぬいぐるみに食いついたことがありました。
 1歳の頃で、まだしゃべらないなりに、自分で一生懸命広げてくまのぬいぐるみを指すんですね。
 主役はアレクサンダとぜんまいねずみなのに。
でもそのくまを味わうために、またその本を読むんですもんね。面白いですよね。
さっきおっしゃってた、「背中押してあげないと楽しまない」という話ですが、
一方で意図しないところで生まれることもある。

―意外性といえば、読んで、と言われたのに無視されることもあります。
 1歳の子が「読んで」って絵本を持ってくるから読むのに、読んでいるそばから別の絵本を
 持ってきて、自分でぱらぱらめくってて。聞く気あんのかってつっこむんですけど。
自由ですね。

―自由です。読み終わると「また読め」って怒るんですけど、自分は自分の絵本を広げているんです。
 BGMとして聞いてるのか、なんなのかわからないですね。
いや、でもこどもはそれでいいんですよ。だって1冊を集中して読むっていうルールは
大人が考えているだけですもんね。そのへんが絵本の面白さですよね。

大人のルールと違う世界で生きている人たちに楽しんでもらうなにかを作り出さなきゃいけない
っていうか。

―こどもたちは正直ですからね。絵本を見て、こちらから訊ねてみることもあるんですけど、
 たとえば、絵の説明が文章に書かれていないとすごく聞いてくるんです。「これは?」って、
 「これ?書いていない」と伝えたら「読んで」ってせがまれるんです。
 だから無理に文章を作るというか。
すごいコミュニケーションじゃないですか、それ。こどもは絵を読み取っているし、
そこを親と共有したがっているし。

―そうなんです。だから一緒に考えたりするんですけど。かと思いきや、
 書かれてある文字を読んでもらわないと気が済まないみたいで、奥付とか、プロフィールとかも
 「絶対ここにもストーリーがあるはず!」みたいな感じで「ここも読んで」って。
 面白くないと思うよって伝えるんですけど。
面白い。それはなかったなぁ。面白く読んだらいいじゃないですか。むりやり。
読み聞かせ自体が声を出すものだから、そこにコミュニケーション生まれやすいですよね。

―生まれやすいですね。こどもは読み聞かせじゃなく、会話していると思うみたいで、
 合間合間にコメントを挟んでくる。そういう意味では親子の会話だけど、
 でも普段の会話とは違う会話ができますよね、絵本は。
素晴らしい。同じ世界に二人でどっぷり入り込んだうえで、
そこで起こったできごとを話し合うなんて、本当、他にはないメディアですよね。

―はい、楽しくなりますよね。
なっちゃいますね。

―読書以外の体験があると、また違ってきますよね。『にこにこばあ』も、
 絵の具で遊んだことがあると、よりその体験が活かされる。混ぜるとどうなるかを知っているから、
 わくわくする。
本当、そうですよね。『みずちゃぽん』を描いたときも、やっぱり水遊びして雨にあたって、
という体験があるからこそ、あの本を読むと気持ちが高揚する。

―黒くんが眠くて機嫌が悪い、というのもこどもたちはすぐ納得してくれる(笑)
大人でも一緒ですよ。眠いときはこどもにすら、つらく当たるもん。

―そうなんですよ。長い文章だと、こっちが寝かしているつもりが眠くなる。
眠くなりますよね。あれ地獄の時間ですよね。横になって、しかもテキスト多くて、
あんまりこっちが好きじゃない絵本を読んでるときの地獄。

―たまに読み飛ばすと、注意を受けたり、「違うよ」って言われたりするので。
あぁ、思い出してきました。長いテキストの絵本を持ってこられると、
すごいスピードで読むんですよ、僕。そうすると怒られますよね。

―こどもはたぶん、寝たくないんですよ。寝たくないから、
 長い文章とか持ってきたりするのかなって思うときがありますね。
あるある。

―そうなると、どんどん絵本持ってきたりするんです。読み終わりそうになると、
 もう次の絵本を持ってスタンバイしていますもんね。下の子も幼いし、まだまだ続きそうです。
まだ続きますね。そういう日々は。でも、下の子に絵本を読んでいるとき、
上の子は聞いていませんでしたけどね。

―同じ部屋で寝ているんですか?
同じ部屋で寝ていますけど、違うもの読んだりとか。

―あぁ、そうですよね。文字が読めるようになりますもんね。
そう、図鑑読んでいたりとか、違うことをしていました。

―もうほんとに、なんだったらそのうち、子どもが暗記できるぐらいの長さぐらいの方が
 本音は助かります(笑)
こども同士で、読み聞かせとかしてくれたり。

―とはいえ、まだ私自身も楽しみたいし、文字を読めるようになった娘も読んで、
 といってくれるので読みますけど。
声を聴きたいとか、あるでしょうね。

―あるかもしれないですね。これからも読み聞かせを「あそび」として楽しんで行きたいと思います。

(つづく)

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作家プロフィール

新井洋行(あらいひろゆき)
1974年東京生まれ。絵本作家・デザイナー。
著書に『れいぞうこ』(偕成社)、『いろいろばあ』シリーズ(えほんの杜)などがある。

挿画に『パーシー・ジャクソン』シリーズ(ほるぷ出版)、『モーキー・ジョー』シリーズ(フレーベル館)など。
2人の娘の父でもあり、一緒に絵を描いたり、バドミントンをして遊んだり、と親子の時間を楽しんでいる。

 





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