―この絵本が愛されているなかで作られていったのだろうな、という感じはすごく伝わります。
いしずさんと絵本との出会いで一番最初の記憶は、どんなものでしたか?
いしず:僕は今年で54歳ですけど、最初の絵本の出会いは3歳頃で
『ABCブック』という世界出版社から出ていたシリーズ絵本なんです。
やや大判なオレンジ色の表紙で、A~Zまで全部で26巻。世界中の名作や童話がABC順に並んでいて
「ガルガンチュア物語」や「リア王」といった長編までもが1冊の中に収められていました。
―とても魅力的な絵本ですね。
いしず:母親が買ってくれたんですが、当時書店では売っていなかったようです。
訪問販売が主だったようで、1カ月に2冊届いたかな。
絵も毎回違う人が描いていて、それが、いわさきちひろさんだったりするんですよ。
―豪華ですね。
いしず:そこでアルファベットを覚えました。この絵本はこの国のお話だよと、世界地図もついていたり。
そんな豪華なラインナップの中で世界のカルチャーを学んだり、凝ったデザインを目にしたり。
それが最初の絵本の出会いでした。
「えほんとのであい〜ABCブック」イラスト/石津昌嗣
―大人になった今でもすごく印象に残っているんですね。
いしず:必ずしもいい話ばかりではないんです。悲しい現実や、残酷な話とか、
童話には世の中の厳しさを教えるという目的もあって、それを子どもながらに、そのまま受け止める。
大人向けとか関係ない世界ですよね。
―子ども騙しではなく、現実をちゃんと伝えてくれる絵本は、ずっと心に残りますよね。
いしず:その本が絵本の原点だったんです。でも、すぐに父が捨ててしまって。
―ええええ!!!!!
いしず:ある日全て捨ててしまって。両親ともにもうじき90歳ですけど、
未だこの話になると夫婦喧嘩しています。なんで勝手に捨てたのって(笑)
―その歳になっても夫婦喧嘩できるのはお元気な証拠ですよ。
いしず:いつかまた出会いたいと思うんですが、中古でも揃っていなくてプレミアもついているでしょうし。
古本屋でもなかなか見つかりませんよね。
―揃っていると、手放したくないですよね。そういう原体験って大切ですよね。
いしず:『ABCブック』で見たデザインやアイデアの発想というのは、自分のルーツですよね。
絵に魅了されて、残酷さを含め、大事なことを心に刻まれて。
それが3歳だったので、おそらく一番古い絵本の思い出です。そこからは児童書や映画に転向していきました。
―読書はおきらいではなかった?
いしず:そうですね。結構図書館で読むことが多かったと思います。
―当時から日本や世界の童話を幅広く読んでいたということは、
児童書も隔てなく読まれていたのでしょうか。
いしず:こわい話に惹かれる傾向はありました。伝説や神話なども好きでした。
それも『ABCブック』のおかげかどうかはわかりませんが、いい意味でトラウマ的に傷がついたと思っています。
―自身の体験が残っていることで、お子さまにも絵本を読むときに生かされたりしているのですか?
いしず:まだ自分でしゃべれないうちは、こちらの判断になりますからね。
私自身がいいと思うものじゃないと見せない。キャラクターものも、あえてこちらから与えませんね。
―ほかに絵本を選ぶ基準はありますか?
いしず:自分も絵を描くので、まず、その絵を気に入るかどうかです。
私自身、特に好きな画家がいるわけではないんです。この作家のこの絵が好き、という感じで。
マーク・トウェイン原作のノーマン・ロックウェルの描いた洞窟の絵とか、シルヴァスタインの詩集のあの絵とか。
―ご自身で揃えられるのですか?
いしず:プレゼントされることも多いですね。
―そのなかで特に印象のある絵本などありますか。
いしず:マーガレット・ワイズブラウンの『おやすみなさいのほん』なんか好きですね。
「ねむたい○○たち」とかいうフレーズも気に入ってます。
世の生き物たちが少しずつ眠りに落ちていくんですが、世界観が強烈で、世界の終焉みたいで。
子どもはこわくて寝るのでは、と思います。もうそらで覚えちゃって、アドリブも入れますね。
―『おやすみなさいのほん』はどのように出会ったのですか?
いしず:この本は、知り合いのブックデザイナーの方が、ご自身のお子さんに、読み聞かせしていたそうです。
なぜだかわからないけど、とにかくよく読んだと。
それは、どういう思いだったんだろう、と読んでみて納得しました。とにかくシュールなんです。
―お子さんにとっても絵本は身近な存在なんですね。
いしず:そうですね。あとは、大体決まって持ってくるのは、せなけいこさんの『ねないこだれだ』とか。
0歳時の頃から、おばけの「ひゅうー」といった効果音を自分で発していました。
キャラクターものでは『きかんしゃトーマス』でしょうか。
―男の子はトーマス好きですよね。
いしず:最初は怖くてわんわん泣いていたんですよ。本でも泣いて、テレビの前でも泣いて。
なのに、泣きながらも見ているんですよ。何かと闘っている感じでしたね。
それが3日目くらいから泣かなくなって、そこから大の仲良しになって。もう一筋ですね。
―なにか、心の中で打ち克ったのですね。
『おやすみなさいのほん』の絵本にしろ、なにかおそろしいものとか、
こわいものでも手に取りたがったり、見たがったりしますよね、子どもって。
いしず:母親が見せたくないものとかね。
(つづく)
どうして そんなに ないてるの?
作・絵/いしずまさし
刊行/えほんの杜
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著者・協力者プロフィール
いしず まさし/石津 昌嗣 1963年広島生まれ 作家/写真家/絵描き
武蔵野美術大学卒業後、グラフィックデザイナーを経て三年間海外を放浪する。旅の途中でダライ・ラマ氏を撮影(写真家として初のポートレイト)。帰国後、写真と執筆業に携わる。著書に『モメント イン ピース』(小説集/リトルモア)、週刊SPA! 連載の『東京遺跡』(写真・小説集/メディアファクトリー)、『あさやけのひみつ』(絵本/扶桑社)、他多数。最新刊は『どうして そんなに ないてるの?』(絵本/えほんの杜)。
『どうして そんなに ないてるの?』
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