この『リタとナントカ』シリーズは表紙のタイトルと背表紙の色以外は赤と黒の2色だけで描かれています。
絵を担当したオリヴィエ・タレックはこの絵本の制作にあたり、新しいことにチャレンジしたいという思いがあったそうです。
最初は色々な色をつけてみたものの、そこからどんどん色を引いていき、最終的にこの2色に落ち着きました。
ちなみに彼の他の作品ではたくさんの色が使われています。
赤と黒と背景の白だけなので登場人物たちが際立っています。
そこにしかない世界感や色がはっきりしない子供の頃の記憶なのではないかということも感じられるような作品になっています。
そして両親の顔が出てこないところがなんともこの作品を引き立てています。
そのおかげで、この絵本を読んでいる子供たちはリタとちび犬ナントカの子供目線の世界に思いっきり入り込むことができ、
逆に親たちは絵本の親と同じ目線で子供を見ているような気になります。
リタの両親は顔から下の絵だけで登場します。リタとナントカに対して大きくて背の高い大人たち、
そのコントラストに一見冷たいような印象をはじめは持つかもしれませんが、すぐに優しい両親だということが伝わってきます。
そっと引いて見守る両親の傍らで2人はのびのびと色々なことに挑戦して成長していきます。
リタとナントカが遊んでいる時は両親の気配を感じさせません。子供は子供、大人は大人という社会がしっかりしているフランスなので、
親は子供たちの遊びの邪魔をせず、子供たちは子供たちで許された範囲の中で楽しむことを身につけます。
そうすることによって親と子、お互いが自由になれるのかなと思います。べったりではない方が子供も成長するものです。
前に紹介した絵本『くまのサーシャはなくしやさん』の時にも少し触れましたが、フランスでは「あれダメ!これダメ!」と
何回も叱るよりもダメなものはダメと早い内から理解させた後は、
ある程度子供を信じてやらせてみるという子育てスタイルなのです。
(つづく)
著者プロフィール
福本舞衣子
家族とともに1歳でフランスに渡り、計約10年間、幼少期と10代をパリで過ごす。高校時代は、地元フランスの進学校のL文系へ進み、
フランス文学や詩について学ぶ。日本の大学でもフランス語を専攻。現在は日本在住。
著書に『星の王子さまが話してくれた世界一幸せになれる33の言葉』がある。