―いしずさんはすでに本を多く出されているんですよね。
初めて出されたのはどんな本ですか?
いしず:最初は『モメント イン ピース』(リトル・モア刊)という小説集です。
3年間海外を放浪したときの話しを書きました。美大を卒業し、グラフィックデザイナーをしたあと、
幼少の頃から特別な思い入れのあったアメリカへ行こうと、旅に出ました。
『モメント イン ピース』(リトル・モア刊)
―バックパッカーをされたのですね。
いしず:バックパッカーという感じではなく、普通の大きめなショルダーバックを肩から下げ、
ちょっと小旅行という感じの出で立ちでしたね。この旅は、はじめ1年くらいかけるつもりだったので、
車を1台買い、基本、その車の中で寝泊まりをしていました。
アメリカに着いて、2カ月後に出会った光景をきっかけに写真を撮るようになりました。
―『モメント イン ピース』に掲載されている写真ですね。
いしず:いえ、そのときの写真は、まだどこにも発表していません。
夜明け前のグランドキャニオンの崖っぷちで、命がけで賽銭を拾っていた青年がいました。
このときの物語を、美しい情景とともに残したいと思ったのです。
―わあ。ロードムービー的な。
いしず:駐車場や住宅街の路上で寝るとか、1週間に1回くらいはモーテルに泊まるとか、
公園の水道で頭を洗うとか、ギリギリの旅をしていましたね。
それから国境越えがはじまって、一度も帰国せず3年間です。
―そうして、1冊の本が生まれたのですね。
いしず:はい。『モメント イン ピース』の後、
写真集として『道草者 –moment in peace』(求龍堂刊)が発売されました。
『道草者-moment in peace』(求龍堂刊)
―はじめは写真を主とした本を出されていたのですね。
いしず: 写真家としての最初の仕事は、旅の最中で、ダライ・ラマさんを撮影したことです。
帰国後、写真でいくつかの賞をいただきました。
写真と文字を生業にし「週刊SPA!」で『東京遺跡』を、「週刊金曜日」で『ねこじた』という
写真をメインにした連載をはじめます。
それから2003年に最初の絵本『あさやけのひみつ』(扶桑社刊)を出しました。
『あさやけのひみつ』(扶桑社刊)
―この『あさやけのひみつ』はピンクの猫が主人公のおはなしですが、
『のら道』(アートン刊)も猫の写真絵本ですね。猫はお好きですか?
いしず:ずっと一緒に暮らしていた猫がいたんですね。その猫ががんになってしまいまして。
手術してもまた転移してしまうという。
―あー…おつらい…
いしず:ある日、ベランダで朝やけを見ていると、猫が膝の上に飛びのってきて、ごろごろと甘えはじめました。
彼女をなでていると、朝やけが見事なピンク色に変わって。
街も自分たちも空気までもが、全部ピンク一色に包まれる。2人でこのピンクの世界に包まれながら、
あとどのくらい一緒にいられるんだろうと、しかし、それはもう至福の時間でした。
この時間を絵本にしようと思いました。
―お2人の経験を元に、絵本が生まれたのですね。今回絵本は2冊目なんですね。
いしず:写真絵本『のら道』を外すと2冊目になります。
―『あさやけのひみつ』は、どんなお話なのでしょう。
いしず:ピンク色に染められた猫が主人公です。その猫をとても可愛いがるおっちゃんがいて、
猫もおっちゃんを慕います。ある日、おっちゃんは、猫を捨ててしまうのですが、
猫は、もう一度なでてもらいたくて、おっちゃんを探す旅に出るんです。
自分のなかではハッピーエンドのつもりで描いたんですが、読んだ人からは悲しい話だと言われます。
ベランダで過ごしたあの時の、至福の時間を色とともに残したかった。
―絵本に登場するおっちゃんはいしずさん自身のことなのですか。
いしず:どうでしょう。ご一読いただけたら。
―そして、今回はご自身のお子さんとの時間を過ごしていくなかで、
また新たな絵本が生まれたのですね。
(つづく)
どうして そんなに ないてるの?
作・絵/いしずまさし
刊行/えほんの杜
1,200円(税・送料別) 購入はこちら
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著者・協力者プロフィール
いしず まさし/石津 昌嗣 1963年広島生まれ 作家/写真家/絵描き
武蔵野美術大学卒業後、グラフィックデザイナーを経て三年間海外を放浪する。旅の途中でダライ・ラマ氏を撮影(写真家として初のポートレイト)。帰国後、写真と執筆業に携わる。著書に『モメント イン ピース』(小説集/リトルモア)、週刊SPA! 連載の『東京遺跡』(写真・小説集/メディアファクトリー)、『あさやけのひみつ』(絵本/扶桑社)、他多数。最新刊は『どうして そんなに ないてるの?』(絵本/えほんの杜)。
『どうして そんなに ないてるの?』
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