第三回 出版社から本屋さんへ転身

シロクマ:小張さんが童心社で勤めていた頃、特に印象に残っている本はなんですか?

小張:僕は『おいしいれのぼうけん』ですね。本が出て40年ほど、
220万部は売れているロングセラーですが、一番関わりが深かった絵本なんです。

僕はこの絵本の販売担当をしていて、絵本のなかに登場する虹のイラストを使用した鉛筆とか、
実際にノートを作ったりだとか、いわゆるノベルティを企画して作って
本屋さんへ持って行くことをやっていました。

個人的にも大好きな絵本で実家にもあるんです。面接の時に好きな絵本はと訊かれて答えたくらい。

シロクマ:児童書出版社に受かることがすごいですよね。
なかなか枠が少なくてハードルが高いですよね。

小張:募集自体が少ないですよね。就職活動をするときに、絵本に関わりたいと思ったんです。
小さい頃から絵本に触れていて紙芝居も読んでもらってというのが温かい記憶として残っていて。

大学のときに、ふと本屋さんに入って『100万回生きたねこ』を初めて読んで
「わあ、なんてすごい絵本なんだ」と。絵本ってこんなに深い心を表現できるのか、と感動して。

美術館に行ったり、本を読むことが好きだったので、その二つの芸術性を兼ねている絵本って
素晴らしいな、と思ったことも、就職希望に選んだ理由にあったと思います。

シロクマ:就職活動はいかがでしたか?

小張:児童書の出版社を受けたいと思っていたけど募集がなくて、かたっぱしから会社の名前を
メモして電話やメールで採用の問い合わせをしていました。童心社も募集していなかったんですけど、
たまたま新聞をみたら募集があって、しなくちゃ!って。で、無事採用されました。

まーちゃんママ:業界に携わっている方って、これは売れる・売れないってわかるんですか?

小張:まあ予想はつきますね。当たるか当らないかは別ですが(笑)
これ絶対売れないな、と思って売れることはない。売れると思って売れないことはある。
なかなか言葉で表すには難しいんですけど…

絵本だったら、表紙が一番だし、いいかどうかということと、タイトル、著者、
そのあたりを総合的に見てこのくらい初版で刷れるかな、と。
配本したらどのくらい返ってくるかな、とか予想はつけますね。

まーちゃんママ:聞けば聞くほど深い。何も考えずに買ってた。

まーちゃん:そうだね。

小張:買う方はそれでいいんです。仕掛けたことに買い手がのっかってくれるか、
ということに尽きます。ディスプレイもそう。

シロクマ:そういったご経験が、売れる・売れないというのは本屋に活かされているのですか?

 

 

小張:ある程度はそうだと思いますが、仕事としては違いますね。
本屋さんに行ったときにフェアや展示の提案や設営もしたけれど、

開催してもらうのと自分でやるのとは全然違うし、肝のところで僕がやっていた営業の仕事って、
本を持っていって「これ何部売りましょう」とか、書店や取次に依頼することなんですね。

チェーン店だと本部とやりとりすることもあって、それだと個々の店に直接伺わずに配本がされるんです。

シロクマ:直接関わらないのですね。

小張:営業の仕事は楽しいけれども、自分が本を作ったわけでもないし、直接売るわけでもない。
営業としてのジレンマがあったんです。ただ本を紹介して数を決めることだけということに
限界を感じて、その先をやりたいという思いがどんどん芽生えてきて。

自分が思ういい本・売りたい本を提供する場所を持ちたいという気持ちが強くなって
本屋をはじめました。これだけ不況ですし、本屋をやるというと反対されたけれども、
一度、自分で売れている、という体験をしたかったんです。

自分で売る場を作って試してみたいという気持ちが大きくて、今細々とやっています。

シロクマ:挑戦の一つに、本屋があったのですね。

小張:だから、本屋をやることがゴールではないんです。
今、この店で学んだことを、出版社なりどこかで行かせていけたらいいなと思うんですよね。
出版業界において何か役に立つことがあればいいなと思うんですよね。その過程で。

 

(つづく)

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プロフィール

ひるねこBOOKS(小張隆)

童心社の営業として8年間勤めた後「ひるねこBOOKS」を根津にオープン。絵本や一般書のほか、北欧をテーマにした雑貨や書籍も取り扱っている。地域と連携したイベントや展示なども行っており、地域密着型の本屋さんとして町の人に愛されている本屋さん。

ひるねこBOOKS HP

https://www.hirunekobooks.com/

 

まーちゃん・まーちゃんママ

中学一年生の頃から「朝絵本を読むと心が落ち着く」という理由から、ライフワークのひとつとしてInstagramにて絵本の紹介を行っている親子。フォロワー数は2017年11月時点で2700人を超え、育児や読み聞かせに悩む親御さんから支持を集めている。

Instagram @nikilove48

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